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横綱みゆ
背後でいきなりブーンと羽音がしたと思ったら頭をかすめて目の前に躍り出た虫はぼくを誘うように右前の墓石に降りた。毎朝のウォーキングは野田山山頂に近いうちの墓まで行って戻って来るのがきまりでたった今着いたばかりだった。蜂、いや違う、もっと重い音だった、そばへ行ってよく見よう、シマサシガメ(全長13〜16ミリ)、違うな、大きいし腹の張り出しも派手だ、肢に白帯もない、ヨコヅナサシガメ(16〜24ミリ)だ、しまった、今日は望遠レンズ付きカメラがない、この大きさならなんとか撮れるか。じっとしていないでチョコチョコ動くのをスマホで追いかけて撮る。散々撮って飛び去るのを待たずにうちの墓に戻った。肝心のお参りがまだだった。
ヨコヅナサシガメは2センチ以上にもなる大型のカメムシだ。“ヨコヅナ”は“横綱”のことだろう。大きさからそう名付けたのか、でもサシガメではオオトビサシガメ(20〜27ミリ)の方がもっと大きい。大きさではやや負けても派手さでは圧勝する。全身漆黒に輝き横に大きく張り出し反り返った腹の縁は白黒が交互に来て派手で立派でこっちが“ヨコヅナ”に相応しい。
ヨコヅナサシガメ 2026年5月26日
シマサシガメ 2026年5月23日 野田山
図鑑には南方系の外来種で校庭や公園の大きな木の樹幹にしばしば集まっているなどと書いてある。しかし見付けるのはキマダラカメムシばかりだからここいらにはヨコヅナサシガメはいないものと諦めていた。それが三日前今年はじめてのシマサシガメを見つけて、ああこれがヨコヅナサシガメだったらよかったのに、と思ったばかりだったからこんなところで出遭うなんて正直驚いた。
ちなみにサシガメは肉食のカメムシでかぎ状の口吻をほかの虫に突き刺して体液を吸う。触ると刺されてそれがかなり痛いらしい。どんな種であれカメムシには触らないのがよい。いや、どんな虫も捕まえようとしない方がいい。捕まえようとする者に向かってくる虫もいる。
ウォーキング中に見かけて撮ったカメムシの写真もだいぶたまって種類で言えば50種以上になっている。日本にいるカメムシは約1500種と言われているからまったく少ないが積極的にあちこち探し回って見付けようとしているわけではないのだからまあこんなところだろう。それに歩く場所はいつも同じ範囲なのだからここ2年ほど見かけるのは“知っている顔”ばかりになっている。それが今日は久々に“新顔”に出遭えた。それもこの目で見てみたいと思っていたカメムシが今日ぼくがこの時間にここへ来ると本人にもわからないことを知っていて待ち構えてでもいたかのように向こうから飛んできて、ここだよここ、と言わんばかりに目の前に降りたのだ。それにしても墓石とはね。カメムシにも変わり者はままいるらしい。 2026年6月2日 虎本伸一(メキラ・シンエモン)
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写真:虎本伸一